患者さんのために垣根をこえて

 

今回は、「岐阜県飛騨地区(高山市、飛騨市、下呂市、白川村)で薬剤師として働いてみませんか?」という求人記事と、「薬学生のための飛騨高山実地研修に参加してみませんか?」というご案内です。
 
薬剤師は薬の専門家であることは周知の通りだが、薬の専門家として患者さんに何ができるのかを日々、考え続けている薬剤師達がいる。話を聞くために岐阜県高山市を訪れた。
 
岐阜県高山市は、名古屋駅からJRで約2時間30分、人口8.8万人で東京都と同じくらいの広さの街。飛騨地区になると面積は富山県とほぼ同じ広さで、人口は約13万人の規模になる。
高山市は「飛騨の小京都」と呼ばれ、古い街並みや、高山陣屋、朝市など江戸時代の歴史的建造物や文化が今でも残されている。
 


その高山市にある特定医療法人生仁会 須田病院は、高山市、飛騨市、白川村を診療圏(人口約11万人)とする単科精神科病院で、この地区唯一の精神科入院機関となっている。
 


院長の加藤秀明さんに話をうかがった。
加藤院長は地元である高山市出身で精神科医。もともと精神医療に興味があり、岐阜大学卒業後は迷わず精神科医となった。
 
「そやな、そやな」と相槌を打ちながら話す姿が安心感を与えてくれる。
 
院長室のドアは常に開放していて、誰でもいつでも入れるようにしているという。
 

40年以上、この地で精神科医として働き、地域の精神医療を見守ってきた。
「院長になった時から地域で唯一の精神科入院医療機関として、地域の責任を果たしたいと思い続けている」と語った。須田病院は私立病院ではあるが、公的な責任があると考え、地域のニーズに応え続けたいという想いだ。
 

精神医療は、「入院医療中心から地域生活中心へ」、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムへ」と変わりつつあるという。
須田病院でもこの流れを捉え、構造改革をした結果、病床数を350床から261床にしている。
 
加藤院長は、「手前味噌だが当院のスタッフは患者さんに優しく、精神障害のある患者さんを守るという気持ちで働いてくれていると思う」と話してくれた。
 
 
次にお会いしたのは、須田病院薬剤師の定岡邦夫薬剤部長。岐阜県病院薬剤師会の飛騨ブロック長でもあり、地域の病院薬剤師と保険薬局薬剤師の連携、医師や行政との関わりなど、地域医療のために様々なことに取り組んでいる。
 

細身で長身、穏やかな口調で、言葉を選びながら物静かに話す。
様々な取り組みについて話をうかがった。
 
定岡さんは、兵庫県出身。大学は名古屋市の名城大学薬学部を卒業し、いろいろ迷った後、縁あって須田病院に就職した。
 
薬剤師として働く中で、薬剤師の視点から院内の課題が段々と見えて来るようになった。日々、ただ調剤をすることだけでいいのかという想いも常にあった。一人の患者さんにたくさんの内服薬が処方されている問題を医師に提起したり、処方内容を検討する会を立ち上げたりした。
 
医師同士はお互いの処方内容に口を出しにくい場合が多い。それならば薬剤師から提案をしていこう。患者さんのために、薬剤師ができることをしようと考えるようになった。
 
そのことで医師とぶつかることも多々あったという。それでも患者さんのためになることは、諦めず粘り強く取り組んできた。そんな姿勢をいつしか周りも理解し、評価してくれるようになっていった。
 
どんな時も加藤院長は見守ってくれていた。
 
2013年に岐阜県病院薬剤師会の飛騨ブロック長に任命された。これを機に、活躍の場を病院外にも広げる。
 
飛騨地区は広域である上に薬剤師数が少ないという状況があった。その状況下で、薬剤師として地域で何ができるかを考えた。その結果、まずは地域の病院薬剤師、保険薬局薬剤師の関係をさらに深めようと、薬剤師同士の連携をスタートさせた。
 
飛騨地区の10病院の薬剤部長、薬局長が集まり問題点を共有した。
次に飛騨地区3市の薬剤師会に声をかけて、定期的に薬剤師の連携推進協議会を開催した。定岡さんが情報共有ネットワークの中心になった。
 
病院薬剤師だけではなく、保険薬局薬剤師にも参加を働きかけた。その結果、保険薬局側の様々な悩みが見えてくるようになった。
病院薬剤師が医師をはじめとする他職種と保険薬局薬剤師とのつなぎ役になることで、連携をより深めている。
 
保険薬局薬剤師が患者さんの自宅を直接訪れ、薬剤指導を行う「訪問薬剤管理指導」がある。この訪問薬剤管理指導を対象患者さんの優先順位や居住地などを見極めながら、病院薬剤師が依頼しサポートする体制を構築している。
飛騨地区は高齢化が進んでおり、独居や高齢世帯、認知症の患者さんが多い。そんな中、薬剤師が在宅医療へ介入していくためには、病院薬剤師と保険薬局薬剤師の連携は必要不可欠であった。
 
またこの地区で活躍してくれる薬剤師を増やしたいとの想いで、2015年から中部エリアの薬学生を中心に2日間にわたり地域医療、僻地医療の実地研修を開催している。毎回、多数の薬学生が飛騨地区に集まり、様々な研修を行っている。2018年度は飛騨地区の病院薬剤師、保険薬局薬剤師が総勢43名のスタッフとして集まった。地域で働く薬剤師という仕事をもっと知ってもらいたい、皆がその想いで垣根を越えて集まっている。
 

この研修会では飛騨地区の急性期病院、介護施設、保険薬局、須田病院などをめぐるコースが複数準備されている。そして各々が、希望するコースを選択することができる。この研修会では訪問薬剤管理指導に同行したり、なかなか触れることのできない精神医療を学べるなど様々なコースを設定している。
 

また、地域の薬剤師とのディスカッションやグループワークを行い、地域医療での薬剤師のあり方や病院薬剤師と保険薬局薬剤師の役割などを学ぶ機会を設けている。
 

参加した薬学生からは高評価を得ており、連続で参加する学生や北海道からの参加もある。地域現場で働く先輩薬剤師の姿を直接見て、話を聞くことで自分の将来像を模索する学生たちにはいい刺激になっているようだ。
 

現在、須田病院で働く1年目の薬剤師、沖村里咲さんは、薬学生時代に4年連続してこの研修会に参加した。
 

薬学生時代から薬剤師として挑戦したいことがたくさんあった。地域医療もそのひとつだった。この研修を通じてさらに魅力を感じ、まずは須田病院で地域医療に関わることにした。
その後の目標も視野に入れ、須田病院で薬剤師人生をスタートさせた。
 

定岡さんは、「初めは研修を通じてこの地区で働いてくれる薬剤師を増やしたいという気持ちが強かった」と語った。しかし、薬学生と触れ合ううちに自分達が教えられることの多さに驚いたという。実地研修を通じて、自分たちが気づきを得て、学んでいると感じるようになっている。
飛騨地区で薬学生と現場の薬剤師達がお互いに刺激しあって、実地研修を積み重ねている。
 
須田病院の近隣に位置するゆう薬局にもお邪魔し、中田裕介薬剤師にも話を伺った。
 

中田さんは高山市出身で、現在は経営者兼薬剤師として働いている。東京都の水野薬局、青森県のサカエ薬局で勤務した後に地元の高山市に帰ってきた。
 
精神科単科の須田病院の近隣ということで、精神科の最低限のスキルを持っているべきとの思いから「精神科薬物療法認定薬剤師」の資格に挑戦し、取得した。
精神疾患治療の専門薬剤師として、精神科疾患への偏見や勘違いを啓蒙活動によって理解してもらえるようにしたい。
認定資格を持つことが評価されるのではなく、資格を取得した人がその資格に恥じない働き方をすることこそが大切だと思っている。
 

須田病院との連携も密にしており、定岡さんとは普段から常に連絡を取り合っている。須田病院には保険薬局からのトレーシングレポートが多く届く。
トレーシングレポートとは、患者さんからの薬に関する様々な聞き取り情報を医師へフィードバックするレポートだ。
 
医師と常にコミュニケーションをとっていなければ、医師に伝えにくいようなレポート内容もある。処方箋を見て疑問があれば、電話するか病院を訪問し直接話し合っている。須田病院の医師とはいい関係ができているという。
2013年から須田病院との連携を始めたが、今では医師と直接情報の共有ができているという。薬剤師から医師との関係が良くなるよう、地道に働き掛けてきた成果だと感じている。
病院薬剤師と保険薬局薬剤師のいい関係を改めて感じた。
 
「患者さんのために、いい仕事をしたいだけ」
 
「単に利便性だけで選ばれる薬局ではなく、常に患者さんに求められる薬局でありたい」
話しぶりから、仕事に対する真摯な姿勢が伝わってきた。
 

病院に戻り、定岡さんに話を聞いた。
 
「長く関わる方が多いので、患者さんは家族みたいなものです」
 
定岡さんに須田病院の各病棟を案内していただいた時に、定岡さんを見かけると何人もの患者さん達が声をかけてくる。手を握る方もいた。今度はいつ来てくれるのかと聞き続けている患者さんもいた。
 
「薬剤師はもっと患者さんのところに行き、必要とされる薬剤師にならないといけない」と言う言葉は、日々の実践からくる説得力のある言葉だった。
「医師は患者さんに会いに行くことが当たり前です。薬剤師も患者さんのところに行って話を聞くことが当たり前の日常にしたい」と思っている。
 
病院内外で忙しく活躍する定岡さんに、その原動力は何か聞いた。
 
しばらく考えて言葉を選びながら、
「やっぱり患者さんに喜んでもらいたいからですね」
「患者さんのためにプラスになることってなんやろうって。そこだけですよね。」
と静かに話す姿が印象的だった。
 
「ビジョンを描くだけではなく、プロセスも考え、あらゆる道を試す」
「患者さんのためになることは、誰かとぶつかっても、粘り強く対話し乗り越える」
持ち前の行動力と調整力で、さまざまな課題に垣根を越えながら挑戦していく。
 
この地域での活動は、自分ひとりで築き上げたとは思っていない。
 
「私と二人三脚で頑張ってくれた妻の定岡摩利の存在や、薬剤部員皆の存在があったからこそ今があると思っています」
 
須田病院で共に薬剤師として働く定岡摩利さんとは、まさに公私ともども夫婦二人三脚で頑張ってきた。
「家庭ではできるだけ仕事の話はしないようにしているが、ときどき家庭でも患者さんに関するカンファレンスが行われる」と笑いながら話してくれた。
 
また、日々の業務はもちろん、論文作成や学会発表など飛騨地区から情報発信し続けている。2016年には、定岡摩利さんの論文
 
「統合失調患者における踵骨部褥瘡の発生と向精神薬の投薬量との関係」
 
が日本褥瘡学会の名誉賞である大浦賞を受賞した。
 
この受賞は須田病院にとっても大変名誉なことで、加藤院長も喜んでくれた。
受賞後、定岡摩利さんには院外からも褥瘡の相談が来るようになっている。
今後もこの地区で働きながら、日々の仕事の中から、大切なことを全国へ情報発信していきたい。
 

「須田病院薬剤部スタッフは、皆が本当に頑張ってくれている。それぞれが、仕事を通じて患者さんやその家族の役に立ちたいと考えながら働いている」
 
薬剤部スタッフとの信頼関係も、定岡さんの背中を後押ししてくれている。
今後も、自分だけではなく、皆さんの力を借りていいものを作っていきたい。
 

飛騨地区は、薬剤師同士の連携が進んでおり、病院薬剤師と保険薬局薬剤師の関係も良い。今回は、須田病院の薬剤師の求人だけではなく、定岡さんが岐阜県飛騨地区で働きたい薬剤師の窓口になってくれる。
 
地域のために、薬剤師が率先して医療連携を進める岐阜県飛騨地区。
この地区が、新しい医療モデルのひとつになる気がした。
 
まずは毎年8月に開催される、薬学生のための飛騨高山実地研修に参加してみては如何でしょうか?
(お問い合わせいただきますと定岡邦夫薬剤師につながります)
 

求人案内
組織名特定医療法人生仁会 須田病院
サイトhttps://suda-hos.jp
勤務地岐阜県高山市
職種薬剤師
雇用形態常勤 非常勤
勤務時間8:15-17:15(休憩1時間)
給与・福利厚生委細面談
その他飛騨高山地区の病院、保険薬局で薬剤師として働きたい方
薬学生のための飛騨高山実地研修に参加してみたい方

お問い合わせいただきますと定岡邦夫薬剤師にお問い合わせ内容が送信されます。

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