次世代の赤ひげを目指して

東京中目黒に、次世代の赤ひげを目指すと宣言する、若い医師二人が立ち上げたクリニックがある。
 
赤ひげとは、山本周五郎が描いた小説、「赤ひげ診療譚」の主人公で、黒澤明監督作品の「赤ひげ」がよく知られている。小石川養生所を舞台にした二人の医師が主役の人間ドラマである。
 
クリニックのホームページには、そんな赤ひげのイメージとは結びつかない、爽やかな二人がいた。そのギャップに惹かれ、中目黒に向かった。
 
中目黒駅から山手通りを少し歩いた場所に、ロコクリニック中目黒はあった。
中目黒は若い世代の夫婦やクリエイターが集まり、通りをひとつ変えれば街の雰囲気もガラリと変わる。
目黒川の桜並木通りは、様々なショップが立ち並ぶ洗練された街並みだ。
 


 
そんな中目黒に、嘉村洋志、瀬田宏哉という救急医療をベースにした二人が、ロコクリニック中目黒を開設した。
 
アージェントケアとプライマリケアを主体に、小児から高齢者まであらゆる世代に対応する地域に根づいたクリニックを目指している。
 



アージェントケアは、日本ではあまり馴染みのないものかもしれない。救命救急センターを受診するような、直ちに生命を脅かす病態よりも軽症ではあるが、緊急性のある病気や怪我の患者さんのケアを中心に行う医療だ。
 
白壁が爽やかで清潔感のあるクリニックで、土曜日の診療後、ふたりに話を聞いた。
 
初めに話を聞かせてくれたのは、瀬田宏哉医師だった。聡明で、好奇心旺盛な人という印象を持った。
 

 
東京出身で、男三人兄弟の三男に生まれた。父親は定年退職しているが、木や水の歴史が専門の学者、母親は星野リゾートでビジネスに携わるという、医療とは全く異なる分野の仕事をしている二人の元に生まれた。
 
長男は外資系コンサルタント、次男はドイツ、フォルトゥナ・デュッセルドルフのサテライトでプレーし、その後フロント入りした元サッカー選手の瀬田元吾さん。家族全員が異なる分野で活躍している。
 

 
祖父が医師で、大阪で病院運営をしていたこともあり、子供の頃から医師に憧れていた。その思いは全く変わることなく、医師になる道を選んだ。
血を見ることが苦手なことから医師を目指さなかった父親は、息子が医師になったことを本当に喜んでくれた。
 
2008年に東海大学医学部を卒業し、東京医療センターで初期研修と2年間の脳外科を研修した。初めから脳外科は2年間と決めていた。その後は総合内科か救急科にすすむことを頭に描いていた。
救急医を志し、2012年に東京ベイ・浦安市川医療センター(以下 東京ベイ)救急集中治療科に着任する。
 
そこで、共同代表の嘉村洋志医師と出会うことになる。
 
嘉村洋志医師は、少し人見知りする印象だが、時折、人懐っこい笑顔を見せる。バスケットボールが趣味で、日本バスケットボール協会医科学委員も務めている。
 

 
福岡県出身で父親が医師、親戚も医師が多い医者家系に生まれた。兄は整形外科医をしている。
 
環境からは医師になることが自然な流れではあったが、なぜか医師にはなりたくないと言っていた。しかし、シュバイツァーの伝記が好きで、シュバイツァーに憧れ最終的には医師となった。いつか海外で医療に携わりたいと考えていた。
 
その想いもあり、2005年に母校の長崎大学熱帯医学研究所に入局した。いずれ海外で働くには救急医療の知識が必要と考え、日本医科大学の高度救急医療センターに研修に出た。
そこでの救急医療との出会いが、人生を決めることになる。救急医療に魅せられ、そのまま救急医療の道を歩むことになったのだ。
 
長崎大学には戻らず、その後も武蔵野赤十字病院救命センターに勤務し、東京で救急医療に携わり続けた。
 
そして偶然、瀬田宏哉医師と同じ2012年に東京ベイの救急集中医療科に勤務することになった。
 
当時の東京ベイ救急集中医療科部長が、米国でも指導医を務めた救急医療のスペシャリストの志賀隆医師だった。米国流の勤務形態、診療指導の元で二人は研鑽を積んだ。
 
嘉村医師は瀬田医師について、患者さんからもスタッフからも大変人気があり、誰からも好かれる人物という印象を持っていた。救急医療の現場では初診の患者さん対応が多く、長期的な関わりが少ない。そのなかでも、患者さんに人気があるということに驚いていた。
 

 
逆に瀬田医師は嘉村医師を、どんなに緊迫した状況でも平常心を保った診療態度をとり、安定感がある医師だと思っていた。
また嘉村医師は、家に帰るお金のない患者さんにお金を貸したり、お腹が空いたという患者さんに弁当を渡したり、という人柄が伝わるエピソードがあった。
 
そんな二人はともに、病院外でも活動していた。野外フェスで救護チーム運営をしたり、お祭りやイベントでブースを出店したりした。また、企業に出向いて講演やワークショップなども行なっていた。
 
医療に対する価値観が近い二人は、自然に自分たちで何かをしてみたい、という気持ちが芽生えるようになった。
 
東京ベイで3年間をともに働くうちに、二人で開業する事を決めた。その頃には、患者さんにより近い診療を、自分たちの力でやってみたいと強く思うようになっていた。
その後開業するまでの3年間は、場所探しからクリニックの診療スタイルなど、いろいろな事を二人で話し合った。
 
日本で数少ない救急クリニックやハワイのアージェントケア・クリニックへも足を運び、自分達の可能性を考え続けた。
 
当初は、24時間対応で救急車を受けいれるクリニックを考えていた。しかし、場所を中目黒に決めたことで、地域の医療ニーズから現在のスタイルに落ち着いた。
 


 
クリニックの縦に長いスペースに、6個の個室がある。この個室は日本では珍しいスタイルだが、米国では主流で待合室兼診察室となっている。
インフルエンザの流行時期などには、罹患している疑いの方に個室で待機していただくことで、感染対策にもなる。また、お会計を個室で済ませることができ、プライバシーを守ることもできる。
 
先に患者さんに部屋で待機してもらい、医師が部屋に入り診察するというスタイルをとっている。
具合の悪い人は、ベットとして使用できるベンチシート(180cmの横幅)で横になったり、個室で点滴を受けることができる。
子供数人を連れて訪れる方には、家族だけで待機できる個室にもなる。
 
また個室の壁はすりガラスでできており、光や人影が確認でき密室感、圧迫感を解消している。人に優しい様々な工夫がなされていた。
 

 

 
診療形態はアージェントケアを主体とし、毎日診療する。平日は23時まで対応している。救急医として働いてきたからこそ、夜間の救患対応の必要性を感じていた。
 
開業して約1年立つが、夜の診療には目黒区以外からも急患の問い合わせや受診があり、アージェントケアのニーズを確実に感じている。
 
精密検査や入院治療が必要な場合は、近隣の大学病院や救命救急センターに紹介している。逆に、地域の病院に専門の当直医がおらず、ロコクリニック中目黒を受診されるケースもある。
地域全体を病院と捉えると、クリニックがERの診察室という感じだろうか。
 

 
小さな子供を持つ、若い夫婦の世代で子供と両親がかかりつけ、祖父母を合わせると3代ということもあるという。開業して約1年で、地域に根付いてきている。
 
二人に話を聞いている間も、通りがかった近所の子供連れの若い夫婦が、診療時間と診療スタイルに興味を持ちスタッフに話しかけていた。
 
「毎日やってるし、23時まで対応してくれるんだね」
「子供と大人も受診できるんだ」
 
街の安心をひとつ増やして、帰って行った。
 
訪れる患者さんは、ざっくりと内科が50%、小児科が30%、心療内科が20%、外科が少しというような感じだという。
今後は、高齢者や生活習慣病の患者さんの継続した診療も目指している。
訪問診療も少人数だが行なっており、訪問看護ステーションや病児保育の立ち上げも計画している。クリニックを基地として、中目黒という地域へケアを広げていきたい。そして地域のニーズに応え続けたい。
 
そのため、今年中には常勤医をもう一人増やしたいと考えている。
 
「家庭医がベースで、フットワークが良く、診療が好きな医師がいいですね。」
まさしく、自分たち二人と同じ診療スタンスの医師を、募集している。
患者さんの「困った」に真摯に向き合う、地域に根付く、をモットーにスタッフとともに成長していきたいと考えている。
 
最後に、開業してみてどうですかと聞いた。
 
「自分達の目指す、患者さんにより近い医療を提供することができて、本当に開業してよかった」
「大変なことも当然あるが、その大変さをこれからも勉強していきたい」
 
と答えてくれた。
 
インタビュー前の挨拶では、対照的な二人だと感じたがインタビューを通じて、その印象は変わっていった。話し方のトーンや笑うタイミング、気遣い、そして医療に対する想いまで同じだと感じた。
そんな二人でも、意見が分かれることがある。その日は結論がでなくとも、後日、落ち着いて話し合い、同じ方向に進んでいる。
 
次世代の赤ひげを目指す。
 
次世代とは、ITの積極的活用や地域へのアウトリーチ、イベント開催などを行うという想いを込めている。
 
スタイリッシュな二人が、東京の地域医療に対する熱い想いを約90分語ってくれた。そこに一ミリも嘘はなかった。
 

 
「中目黒という地域をまるごと診る、次世代の赤ひげを目指します」
 
ロコクリニック中目黒。
 
そこは東京の一点に強い意志を持ってつくられた、自分たちの信じる医療を目指す基地だった。
 

求人案内
組織名ロコクリニック中目黒
サイトhttp://loco-clinic.com
勤務地東京都目黒区東山
職種医師
雇用形態常勤・非常勤
給与応相談
勤務時間日診 08:45〜17:15 夜診 16:45〜23:15 土日は14:15まで
休診日:祝日、連休、年末年始は不定休
※上記に限らず勤務時間・曜日は柔軟に対応します
※平日は日診と夜診の間に訪問診療を行います
休日休暇祝日・夏季休暇・年末年始(クリニックの休診日に準ずる)。
シフト制のため、柔軟に対応可能です。
福利厚生昇給・賞与あり(能力・業績に応じ判断)
勤務時間に応じて社会保障あり(応相談)
制服貸与
外部研修一部補助(運動や英語学習に対する補助あり)

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